ビデオ制作の基礎

ここでは、ビデオ撮影と編集について要点を述べていきたいと思います。映像制作の経験が浅い人は、得てして「どんな素材だって編集すれば何とかなる」と考えてしまいがちです。しかしながら、実際には撮影する時点において編集のことを頭に入れておかないと、編集する時になって取り返しのつかないことになってしまいます。ここでは、全体の流れを解説していくことにします。


1) 撮影の前に
これから撮るものが何であるのか、何を伝えたいものなのかを考えます。当たり前のことのように思えますが、頭の中で主題を整理しておくのは非常に大切なことです。旅行の記録であれば、どこへ行って何をしたのかを伝えることがメインテーマ。ミュージック・クリップであれば、その曲のイメージにあう映像を出来るだけ集めることが目的。ドラマであれば、脚本に書かれたストーリーをいかに巧く映像化するかが撮影におけるテーマでしょう。ここでは、旅行の記録を例にとって説明を続けることにします。
2) 完成した姿を想像する
テーマが決まったら、自分なりの筋書きを考えます。起承転結に分けてみると考えやすいでしょう。旅行ならば、往路、観光、食事、帰路といった風に区切って、それぞれの段落でどんな映像を撮るべきかを予め考えておくのです。ただ、あてずっぽうにカメラを回しているだけの映像と、撮影する対象をしっかり意識した映像ではおのずと仕上がりが変わってきます。
3) 映像を収める
旅行の記録で欠かせないのは、とにかく映像です。ドラマやインタビューならば、日を改めて撮り直すことも可能でしょうが、旅行に限っては当然ながらそうしたことは出来ません。とにかく、無駄と思えるほどたくさん撮っておき、編集の段階で必要なシーンを厳選すればよいのです。素材となる映像はいくらあっても足りなくはありません。
4) 撮影の基本
旅行の記録に限らず、どんな作品においても撮影の基本は「ワイド端、フィクス」です。これは、ズームは一切せず、一番引いた状態(これをワイド端と言います)にして、カメラをパンする(左右に振り回す)ようなこともせずに、アングルを固定(フィクス)した画像を撮るという意味です。アップで撮りたいものがあるのならば、自分から近づいて撮ります。とりわけ、限られた時間で撮影をし、出来るだけ多くの情報を詰め込まなければならない記録映像では、下手な小細工は作品を見苦しくするだけです。ドラマや映画などの演出方法として、ズームやパンニングを使うことはありますが、それはあくまでも、「ワイド端、フィクス」で撮影の基本を踏まえた上での技法ですし、そのような撮影で安定した画像を得るには、三脚が不可欠となります。また、景色や建物を動きながら撮影するのも感心しません。動かないものは動かずに撮影するべきです。しかし、一方で移動している人を収める場合は動きながらの方が躍動感を得られる場合もあります。いずれの場合も、カメラは両手でしっかりとホールドし、脇を締めてカメラがふらつかないようにします。また、カメラを持つ手でレンズやマイクが隠れないように気をつけます。特に、マイクに指が触れると物凄い雑音が入ってしまいます。
5) 情報を収める
旅行に行っているあなたや他の参加者は、旅行中にどこへ行ったのかを覚えています。ですから、いきなりシーンが変わっても「ああ、ここは○○だよね」ということが分かります。しかし、映像作品を作る際には、何の予備知識もない人にも理解してもらえるような演出が必要です。例えば、到着駅の看板や駅舎が出てくれば、視聴者に「ああ、ここに着いたんだな」と無理なく分からせることが出来ます。温泉に入るのならば、旅館の看板や全景であるとか、寺社仏閣であるならば、入口の看板や案内図などを撮っておけばよいでしょう。現在位置を示す情報はきわめて重要です。百聞は一見にしかずとのことわざ通り、折角眼に見える映像を収めることが出来るのですから、それを活用しない手はありません。移動中には、車窓風景なども収録しておきたいところですが、ここで気をつけておきたいのは、移動中の撮影方向は常に一定にしておくということです。つまり、ついさっきまで電車が右向きに走っていたのに、次のシーンでは左向きに走っているようでは、視聴者に無用の混乱を招きかねません。また、お寺や史跡などには必ずと言ってよいほどその沿革や歴史が書かれた看板があるでしょうから、これも収めておきます。後々、ナレーションや字幕で解説を入れようと思ったときに、この映像から文言を拝借すればよいのです。もちろん、パンフレットや冊子類も貰っておくとよいでしょう。
6) 編集する前に
編集を開始する前に、撮影した素材を一度最初から最後まで眺めておくことをお勧めします。全体の流れを把握しておくことが肝要です。そして、大量に撮った素材の中から、自分が使いたいと思うシーンを編集前に見極めておけば、実際に編集する時の労力が軽減されます。
7) 作品の長さ
作品を作るうえで、一番気をつけなければならないのは完成した作品の長さです。撮影した本人にしてみれば、出来るだけ多くのシーンを見てもらいたいところですが、何十分も何時間も続くビデオを進んで見ようという人はあまりいないものです。筆者の経験からして、作品の長さは5分?15分、長くても20分が視聴に耐えうる限度です。以前、2泊3日のキャンプを1時間に納めたビデオを見せられたことがありましたが、とても堪えられませんでした。このシーンも欲しい、あのシーンも欲しいと言って画像をつないでいけばとんでもない長さになってしまいますから、予めの15分ならば15分という時間の制限を自分自身に課しておき、その上で映像を選別してゆけばよいのです。5日間の旅行であれば一日あたりの収録は3分程度になりますので、それを目安に映像を選んで編集していくことになります。
8) 1カットの長さ
1カットあたりの長さを意識しない人も多いのですが、これは5秒が基本です。5秒は短いように思えますが、実際に編集をしてみると意外に間があることに気づくと思います。それ以上短いと物足りなく感じますし、逆にカットを長くすれば、一体ここに何が現れるのかな、と視聴者に無用な勘繰りをされてしまいかねません。もちろん、5秒で収まりきらない場合には伸ばしたって構いませんが、出来る限り5秒の倍数でカットするように心掛けましょう。同じペースで画像が変化していくことで、リズム感が出て視聴者にも見やすい映像になります。
9) 編集中の特殊効果
ノンリニア編集の普及で、画面に字幕や特殊効果(エフェクト)を入れることも容易になってきました。しかし、エフェクトをかけられることと、実際にかけることは別であって、やり過ぎは禁物です。筆者の場合、特殊効果は原則としてフェードイン・アウト(画面が徐々に黒くなる/白くなる、或いはその逆)と、クロスディゾルブ(前後のシーンが徐々に透けて変わっていく)に限っています。あまり派手なエフェクトを使えば、逆に安っぽく見られかねないということを頭に留めておく必要があります。
10) シーンのつなぎ目
撮影前に考えていた筋書きを思い出して、起承転結それぞれのシーンの区切りがハッキリ分かるような編集を心がけなければなりません。例えば、最初は電車に乗りこむシーンだったのに、次のシーンではいきなり神社を見学していて、次にはもうホテルの中にいる…というのでは、見ている側に混乱を招くだけです。ですから、大きく場面が変わる境目では、それを示す言わばつなぎの映像を入れることが必要となります。先ほどの例で言えば、電車に乗り込むシーンの次には車窓風景、到着駅、そして神社に向かって歩くシーンを挿入していけば、神社のシーンへの切り替えは実にスムースなものになります。次のシーンも同様に、ホテルへの移動風景あるいは、ホテルの入り口や全景が映った画像があれば、場所が変わったことがすんなり分かります。
11) 映像が足りない場合
映像をたくさん撮っていたつもりでも、シーンによっては物足りなかったり、肝心な場面を撮り逃すようなことはあると思います。先にも述べたとおり、撮れなかった映像は取り返しがつきませんが、それを補完する方法を考えましょう。
a) 静止画/写真
動画としての長さは足りなくても、主要な場面を静止画で繋いで間をもたせることが出来ます。また、旅行中に撮った写真をスキャンして、静止画として作品に挿入することも考えられます。画像処理ソフトなどでサイズを640*480ピクセルにしておきます。このシーンは無音になってしまいますから、適宜BGM などを加えます。
b) スローモーション
ノンリニア編集をしている場合には、スローモーションをかけることも簡単です。スピードを5分の1倍速にすれば、一気に5倍の時間を稼ぐことが可能となります。 ただし、これもまた音声は入りませんから上記同様BGMなどを入れることになります。
c) 撮影し直す
旅行をもう一度やり直すわけにはいきませんが、出発地の駅や空港に改めて出向き、撮影に使えそうな映像を撮ってくることは可能です。また、列車の発車や飛行機の離陸といったシーンは、旅行している最中には絶対に撮れませんから、足りない映像を補うという目的以外にも、演出として用いることを考えて撮影しに行ってもよいでしょう。
12) エンディング
作品の終わりには、それと分かる印象づけが必要です。あれこれ楽しく見て回ったシーンが続いて、突然”THE END”となってしまっては見ている側も面食らってしまうでしょう。では、印象付けの方法をいくつか考えて見ましょう。
a) インタビュー
旅行に参加した人に、感想を語ってもらいます。このシーンを持ってくれば、自ずと旅行が終わろうとしていることが分かります。
b) 車窓風景
行き道に車窓風景を収めていたならば、帰り道にはそれとは反対側の進行方向に進む映像を撮っておきます。それを挿入すれば、帰り道であることが自ずと演出されます。
c) 回想シーン
BGMに乗せて、旅行の主要なシーンをスローモーションで織り交ぜていくと、旅行を総括しているイメージが演出されていきます。ただし、エンディングだけで何分も時間をかけるわけにはいきませんから、長さには気をつけなければなりません。
おわりに
これまで述べてきたことは、本当に基礎中の基礎であって、アイデア次第で別の表現方法はいくらでもあり得ると思います。今回は旅行の記録を例にとりましたが、機会があれば、別の映像表現についても述べていきたいと思います。